金沢地方裁判所 昭和25年(ヨ)4号 判決
申請人 野尻外男
外九名
被申請人 株式会社北国銀行
一、主 文
本件仮処分申請を却下する。
申請費用は申請人等の負担とする。
二、申請の趣旨
申請人等代理人は、(一)被申請人は申請人等が被申請人会社の被雇傭者としてその業務を行うことを妨害してはならない。(二)被申請人は申請人等の従業員である地位を保障し、賃金の支払いその他労働条件につき従前の待遇より不利益に変更してはならない。(三)申請人等は被申請人会社の従業員たる地位を仮りに定める、との判決を求めた。
三、事 実
申請人等は孰れも被申請人会社に雇われ、長きは三十年短くとも十年間勤続している銀行従業員であつて、且つ昭和二十四年十一月二十二日迄北国銀行従業員組合執行部役員を為して来たものである。而して、戦時中の独占金融資本時代を経過し戦後の健全なる企業を育成し産業の復興を図るには金融資本の円滑なる貫流を期さねばならず、これがためには一日も早く銀行経営の民主化を促進しなければならぬので、申請人等は組合活動においても絶えずこれを目標とし、従業員の生活を向上させるため労働条件の改善をはかるかたわら、被申請人会社との間には或は経営協議会を開き、或は団体交渉を重ね、而してその機会においては常に活溌な意見を発表し、被申請人会社発展のため真に努力を傾け、又その方法において、申請人等は組合運動が合法性を失うことなく広く民主的に討議を重ね、專ら合法の一線を厳守して来たのである。ところが、従来申請人等の属する右従業員組合と被申請人会社との間に昭和二十二年十二月二日成立の労働協約が存在しておつたのであるが、同協約の有効期間が六箇月となつており、当事者から変更廃棄の意思表示がない限り、自動的に前と同じく六箇月延長され、爾後数次の更新を経ていたところ、昭和二十四年十一月七日被申請人側から組合に対し廃棄の通知が為され、同年十二月二日を以て一応形式上の無協約状態となるや、翌三日被申請人は突然申請人等十名に対し一律に「行務を妨害し銀行の信用を失墜せる廉に依り解職す」という理由の下に解雇通知を為して来た。しかし乍ら、後記の如く、右協約は当時有効に存在していたのであつて被申請人会社の為した本件解雇は右協約違反であるのみならず、左の各理由により無効である。すなわち、
(一) 労働組合法(改正)第七条に違反する不当労働行為である。
右の如く申請人等は銀行経営の民主化を図らんがため、昭和二十四年十一月組合役員を辞する迄、組合員一同の信頼を担い、よく合法的に組合活動に專念して来たのであるが、右解雇理由にあげたような行為をしたおぼえがなく、今囘の解雇が組合役員のみを対象としている点からしても、これは明かに北国銀行従業員組合の執行部として正当な組合活動を為して来た申請人等の弾圧を意図したものと言うべく、所謂不当労働行為に該当すること明白である。
(二) 労働協約に違反していること前記のとおり。
すなわち、右従業員組合と被申請人会社との間における労働協約第五条第二項には「解雇、懲罰は経営協議会に審議する」との規定があるが、右協約は昭和二十四年十一月七日附被申請人会社の廃棄通知にもかかわらず、同協約第十二条第二項「変更又は廃棄の意思表示があつた場合は新協約締結の日まで此の協約を有効とし、二箇月中に新協約を締結する」との約旨によつて、同条第一項所定の六箇月たる昭和二十四年十二月二日以降尚二箇月間は有効に存在していたのである。従つて、被申請人が本件のような解雇をなそうとするときは、右協約に基く審議をしなければならない。然るに被申請人はこれを行つた形跡がないから右解雇は労働協約に違反するものとして無効である。
(三) 労働基準法第二十条に違反する無効解雇である。
被申請人が申請人等を解雇するには右規定に基き、三十日前の予告、三十日分以上の平均賃金の支払、行政官庁の認定等所定の手続を経べきであるのに、その履践がない。而して、第二十条の規定は強行法規であること、民法上の契約解除や告知ですら相当の催告期間又は告知期間が守られていないときは解除又は告知とし無効であること、又解雇の如く使用者の意思によつて労働者の地位を失わせるような重大な事項については労働基準法所定の要件は特に厳格に解さるべきこと、これらからして、右規定違反の解雇は無効というべきである。
(四) 然り而して、本件解雇は民法第一条に照し解雇権の濫用であつて、法の精神、協約の趣旨将た又社会通念からしても無効といわねばならない。
さて、このように申請人等に対する本件解雇は無効のものであるから、申請人等は被申請人を相手方として解雇無効確認の本訴を提起しようという考えであるが、申請人等十名はその解雇以来家族と共にその日の生活に窮している実状であつて、このまま放置するときは憲法上保障されている裁判を受ける権利すら経済的理由の下に事実上葬り去られるおそれがあるので、とりあえず、前示申請趣旨の如く身分保障、賃金支払等の仮処分を求めるため本申請に及んだ次第である。
申請人等代理人は被申請人の主張に対して更に次のように陳述した。
(一) (法外組合について)被申請人は、北国銀行従業員組合は労働組合法第二条の要件を具備しない非自主的組合、すなわち、法外組合であると主張するけれどもこれを否認する。尤も、被申請人がいうように、右組合には所謂課長代理、検査役、人事課長代理等も組合員とされていたけれども、これらの者は別に行員の雇入解雇、昇進又は異動について直接の権限を有するわけではなく又課長代理や支店長代理等は場合によつて、便宜上課長や支店長を代理すること、手形に署名すること等はあるが、これらの事務は使用者の利益を代表する行為ではない。法律に「使用者の利益を代表する」というのは労働者に対し使用者側の利益を代表するという意味であつて、外部に対する経営者の代表をいうのではない。次に右組合は課長、支店長の一部から少額の寄附を得ていたことはあるが、これはこれらの者の自由な考えに基くものであるし、その額からみても所謂資金を得ていることにはならない。右組合は労働組合法の改正を見越し、昭和二十四年四月十日の組合総会で従来組合員とされていた課長、支店長、検査役を組合から除外し、又組合專従者の給与等に関する予算案も作成し、一方支店長や課長からの寄附金は共済資金、厚生費等に充当し、合法的組合たらんことについては周到な注意を為して来たのである。又被申請人は法外組合であれば、恰も不当労働行為の問題、労働協約の締結権はないように言つているけれども、法外組合と雖も争議権もあるし、団体交渉権もあり、従つて労働者の組合活動に対する圧迫干渉についても当然不当労働行為ということは問題になるのである。而して団体交渉権のあるところには労働協約締結権もあるのである。
(二) (解雇理由について)右のように、不当労働行為というようなことは法外組合であると否とにかかわらず禁止されるのであるが、被申請人が本件解雇について具体的にあげている理由をみると、
((1)の理由について) 行務のため上司の指示又は許可により外出することは当然且つ必要なことであるし、組合員が組合運動のため外出又は欠勤するが如きは労働協約にも定められていることであり、又その都度所属長の諒解を得ていることなのである。従つて、たとい組合活動のため外出欠勤することが普通行員より多かつたとしても、それが故を以つて解雇することは許されない。
((2)の理由について) 委任状蒐集の経過は昭和二十四年十月二十八日に定時株主総会が開かれることになつていたので、同年十月十六日の組合臨時大会において、従来から銀行民主化のため従業員としても常に関心を持つていた重役の不適格条件につき討議し、次で「株主たる組合員が総会委任状を集めることの可否」について提案し、合計九十二票中七十三票の圧倒的多数を以つてこれを可決し、その取扱については執行部一任というふうになつたのである。ところが、その後右決議を否とする一部の反対運動が起きたので、執行部としては一応大会決議を遂行する責任をもつていたけれども、当時の情勢上これを中止するに至つたのである。その際被申請人が主張する株主の欺罔誤信或は自由な議決権をじゆうりんするという意図は毫末もなかつたのである。株主の自由意思に基いて為される白紙委任状の讓渡が銀行の方でうけようと組合の方でうけようと少しも悪いことはないのである。だから、以上の経過に徴し被申請人から解雇を受ける程の非難を蒙る筋合は全くないのである。
(経営権侵害について)被申請人は右の委任状蒐集についてこれは目的、実態何れの点からしても被申請人会社の経営権を侵害するものであると主張している。しかし、委任状の問題は株主に固有な議決権の問題であつて、業務執行機関たる取締役の所謂経営権とは別個のものである。従つて、委任状を集めようとしたからとて経営権侵害の意図があるということにはならぬし、又集まつた委任状を組合の管理においたとてこれ又経営権の侵害ではない。これは要するに、被申請人会社で委任状を蒐集することが許されるのは、それが経営権の内容であるからではなく、株主の自由意思に基く交付があるから許されるのである。してみると、これは組合側が集めたときにもあてはまる理くつであつて、経営権の侵害というは全く意味を為さない。而して、委任状の蒐集は組合代議員会においても慎重に論議されたことであつて、申請人等が重役の地位を獲得しようということ等は全然なかつたのであり、取締役の進退はいつに株主の判断に任されていることなのである。
((3)の理由について) これは事実そのような言辞のないことを理由とするもので、かえつて申請人等十名に共通しない解雇理由として被申請人会社の不当解雇をもの語ると言える。
((4)の理由について) 経営権侵害のおそれあるとは意味をなさない。これも、すでに妥結した今日これを云々するのは正に不当労働行為と言わねばならない。
(三) (仮処分の必要性について)被申請人は申請人等に不動産又は少額の預金あることを以つて仮処分の必要なしと云つているが、今日の経済情勢においては、右の如きもので生活の安定を期せられるわけのものではなく、勤労による給料なくしては到底その生活の維持は出来ない。現に申請人等は全銀連より月々若干の一時貸付を受けているのである。従つてこの点からしても賃料仮払の仮処分を必要とするのである。他面申請人等が解雇されて以来、北国銀行従業員組合は弱体化に弱体を重ねており、この意味でも申請人等は囘復し得ない損害を受けるわけで、本件仮処分を必要とするのである。
(疎明省略)
被申請人代理人は主文第一項同旨の判決を求め
(一) 答弁として、申請人等が申請理由にあげている事実のうちで、申請人等十名は孰れも元被申請人会社に雇われていた従業員であること、申請人等はその主張の頃迄その主張する従業員組合執行部の役員をしていたこと、被申請人会社と申請人等の属する右組合との間にはその主張するような労働協約があつたのであるが、昭和二十四年十一月九日(七日の誤りと認む)被申請人会社から廃棄の通告がなされたこと、同年十二月三日申請人等主張の解雇通知が為されたこと及び本件解雇につき申請人等主張の経営協議会の審議、労働基準法第二十条所定の三十日前の予告手続を経ていないことはこれを認めるが、その他はこれを否認すると述べ、被申請人の主張として次のとおり陳述した。
(イ) 本件解雇理由の具体的内容を挙示すれば、
(1) 申請人等の中、C、D、E、F、G、Hは営業時間中ほしいままに外出し、許可なく欠勤し、或は出勤したように見せかけて勤務せず、執行委員会や個人的用件で出張しながら行務出張のようにし、行内の秩序を紊し以て行務に対し非協力的であつたこと
(2) 昭和二十四年十月二十八日の被申請人会社定時株主総会において、取締役並に監査役の任期満了による改選の件其の他につき付議すべく被申請人会社では各株主に宛て総会召集通知を為すと同時に、株主の便宜を図つた白紙委任状を送付したところ、申請人等は右総会を自己の意図のまま操縦しようと企て組合員をして恰も被申請人会社が集めるかの如く装い右委任状の蒐集に着手させ株主の自由なる議決権をじゆうりんしようとしたこと。
(3) 申請人Aは昭和二十三年八月十一日被申請人銀行本部職場大会において進駐軍の政策は日本国民の飢餓による人口削減を目的としているとの占領政策誹謗の演説をし、被申請人会社の信用を危殆ならしめたこと。
(4) 同、昭和二十四年二月被申請人会社を相手方とする申請人等組合の賃上争議において申請人等中、A、E、I、H、J、D、C、F、Gは共謀して同年二月十七日より二十五日の九日間現金にも比すべき合計二億五千二百八万余円に上る為替内訳書の抑留を為した結果、日本銀行金沢支店に手形借入金合計二億九千三百万円及び為替決済資金借越金として最高借入残高九千四百六十六万四千七百十六円三十七銭の借越金に対する利息及び違約金の合計百四十七万千六百円三十六銭の損害を受けたことがあつたので、申請人等の今後の行動にも右のような経営権侵害の反復されるおそれがあつたこと。
以上(1)―(3)の理由と併わせ(4)の附随的理由によつて、被申請人会社は申請人等十名を解雇したのであるが、これについては以下の理由により右解雇を無効とすべき点は毫もないのである。すなわち
(ロ) (法外組合について)
北国銀行従業員組合は労働組合法第二条に該当しない非自主的組合である。即ち右組合員中には課長代理、本店営業部次長、部長代理、支店次長、支店長代理等を含むのであるが、これらは使用者側の利益を代表する者であること、行員の身分に関し直接監督の地位にある検査役、人事課長代理も亦組合員であること、右組合は課長、支店長等から毎月資金の供給をうけていること等に徴し所謂法外組合であること明かである。従つて、
(1) 右の如き組合の構成員たる申請人等は本件解雇について同法第七条の保護をうける適格なく、右解雇にはいわゆる不当労働行為という問題はおこり得ない。
(2) 又法外組合は憲法第二十八条で保障する労働者の団結権、団体交渉権及び団体行動権はこれを有し、一方組合活動が正当であるかぎり民法上の免責をうくべき点には法内組合と変りはないが、其の他については労働組合法の適用はないというべきであるから、北国銀行従業員組合は労働組合法にいう労働協約の締結権はなかつたといわねばならない。被申請人会社はかかる趣旨を含めて、昭和二十四年十一月七日協約廃棄の通告を為したものである。従つて被申請人会社は右解雇につきどの面からしても申請人等の主張するような労働協約に拘束されることはないのである。仮に右協約が民法上の無名契約だとして、それに基く審議を要すべきものとしても、解雇につき被申請人会社のとらなかつた措置は屡々債務不履行の問題を生ずるにとどまり、解雇そのものの無効を生ずるものではない。
かようなわけで、被申請人は申請人等に前示の如き事由のある以上労働法上何らの制限なく解雇しうるのである。
(ハ) 仮りに、然らずとしても、
(1) (経営権侵害等について)解雇理由(1)及び(3)については労働組合法第七条の問題はおこり得ないし、(2)の委任状蒐集行為においては、申請人等の活動は銀行の経営権を侵害するものであつて、組合活動を逸脱し、正当な組合活動とは称されない。すなわち経営権が労働力のコントロールに介入しこれを侵犯することが不当であると同じく、組合がその活動で経営権への侵害をあたえることも亦許さるべきものではない。申請人等が自分たちの発した指令で既に集つて来た白紙委任状を組合の管理下におく行為自体は明かに経営権の侵害であり一つの業務管理とも称すべきものである。従つて、かかる組合活動は正当な組合活動でないこと勿論であつてことにその目的において銀行取締役の選任について組合幹部の意図する人物を選出しようとするに外ならず、その手段、実態において組合指令遂行のため職場離脱を行い、白紙委任状蒐集については組合の行動たることを秘して株主が集める如く或は銀行業務としてこれを為すかの如く偽装し委任株主を欺罔したものである。これ等により、右の行為は組合活動として到底正当性を有しないものというの外はない。申請人等は或は集められた白紙委任状は結局行使されず、いわば未遂に終つたのであるから解雇するほどの事由ではないと言うかも知れないが、これは自ら中止したのではなく事の意外に重大であつたことに想到し、遂にさきの指令を撤囘したもので、言うならば、しようがい未遂なのである。以上の如く本件の委任状蒐集行為は単に従業員たる株主によつて集められたものではなく組合活動として行われたもので、その正当性を有しないこと既述のとおりであるから被申請人の為した解雇権の行使は正当且つ有効なのである。而して附随的解雇理由(4)として掲げた為替内訳書の抑留も亦それ自体経営権侵害の最たるもので、これを右白紙委任状蒐集と一貫して考えるときは今後も亦その反復のおそれあること明瞭である。
(2) 而して本件解雇は労働組合法第七条にいう不当労働行為だとしても、改正法のもとではこれを私法上無効とすべきではない。
(ニ) (労働基準法第二十条違反について)
申請人等は本件解雇は右第二十条に違反し無効であるというけれども、被申請人会社において右規定に則り、各一カ月分の賃料の支払を為そうとしたところ、申請人等はその受領を拒んだので既に昭和二十四年十二月十日、同月十五日の両回に亘りこれを弁済供託した。(申請人等中一名現金払)。
(ホ) (解雇権濫用について)
申請人等は銀行執務に誠実を欠き欠勤が続いたこと、為替内訳書の抑留、委任状の蒐集など経営権を侵害する非行が累せきされたこと、これらを原因とする本件解雇は決して権利の濫用ではない。
(三) 仮処分の不必要性について次のように陳述した。
被申請人は申請人等の労働給付受領義務はないし、かえつて申請人等が被申請人会社にたとい一時たりとも復帰することは行内の秩序を紊すこと、申請人等に相当の生活上の余猶があること、全銀連から月々一万円の補助をうけていること、これら何れの点からしても本件仮処分はその必要性ないものと言うべきである。(疎明省略)
四、理 由
申請人等十名は孰れも元被申請人会社に雇われていた従業員であること、同人等は昭和二十四年十一月二十二日迄北国銀行従業員組合執行部役員をしていたこと、被申請人会社と右従業員組合との間には昭和二十二年十二月二日成立の労働協約があつたこと、これには六箇月の有効期間が定められ、当事者から変更又は廃棄の意思表示がない限り自動的に前と同じく六箇月毎に延長される旨の規定があること、ところが、昭和二十四年十一月七日被申請人会社は組合に対しこれを廃棄するとの通知を為したこと、而してその後同年十二月三日付で被申請人より申請人等十名に対し「行務を妨害し銀行の信用を失墜せる廉により解職す」という解雇通知が為されたこと、被申請人はこれについて経営協議会の審議や労働基準法第二十条に定める三十日前の予告手続をしなかつたことは当事者間に争がない。
以下申請人等の主張する順序に従つて本件解雇の有効か無効かにつき一応の判断をする。
(一) (不当労働行為について)
申請人等の主張する第一の解雇無効理由につき、被申請人において申請人等の属していた北国銀行従業員組合は労働組合法第二条に該当しない非自主的組合であつて、かかる組合には同法第七条(第一号)にいう「不当労働行為」の問題は生じないというから果して右組合はいわゆる法外組合であつたかどうかと併せ、この点を考えるに、労働組合法第二条の法意は使用者の利益と密接に関係ある者が組合に加入しているときは使用者と組合の利害相反する場合に其の職務上の義務と組合員としての誠実との間に矛盾を生ずることを防止し一面組合の自主性を守ると共に他面使用者の利益をも保護しようとするにあるのである。然るに北国銀行従業員組合には課長代理、人事課長代理、検査役等がその組合員とされていたことは申請人等においても別に争わぬところであるが、成立に争のない甲第一号証、第七号証、第九号証、第十号証、第二十六号証、第二十七号証、第三十二号証、乙第八号証、乙第二十五号証ノ一乃至七、第二十八号証、証人山崎和夫の証言により真正に成立したと認められる乙第二十九号証、証人庄田喜当、同山崎和夫、同源本武雄、同伊藤定作、同芳井先一、同高田茂雄、申請人本人A、同Iの各供述、当裁判所が真正に成立したと認める甲第六号証、第八号証、第十一号証乃至第十四号証、第二十九号証、第三十一号証を綜合、考察すると、本件組合には従来組合員中に人事課長秘書役等が加入していたに拘らず現行労働組合法の施行を予想しこれ等の者を組合員から除外し以て組合の自主性を計つたのであるが其の際人事課長代理等が残存したけれども会社側よりは何等其の除外を要求した事跡なく而も組合は毫も所謂御用組合となることなく自主的活動をなして居たこと従つて右課長代理等は其の地位名称の如何に拘らず会社に於ける実質的の職責は労働組合法第二条第一号所定の機能をなす者ではなかつたと推測される。ただ、右組合が課長等から月々少しばかりの寄附金を得ていること、組合役員であつた申請人等の一部で給料の支払を失わないで組合大会等に出席していること等を推知し得るけれどもこれを以つて本件組合を労働組合法の保護の外にある組合と謂うことは出来ない。
仍て本件解雇は不当労働行為であるか否かについて考えるに、申請人等十名は何れも本件組合の執行部役員たる重要な地位にあつたことは被申請人の認めるところで此の点から本件解雇は組合活動を理由とするものではないかとの疑を持たれるから被申請人の解雇の理由を審究すると、其の主張の(1)及(3)の理由は孰れも被申請人の疎明方法に依つて窺知出来ない。仍て(2)の理由を審究する。
申請代理人は委任状の蒐集は経営者側でする以上労働者も此れを為し得べきであると主張するのであるが惟うに株主の委任状を蒐集すること自体は経営者会社債権者其の他の利害関係人等何人と雖も為すことは自由であつて法律は之を禁止しては居ないのであつて此の意味に於て申請代理人の主張は洵に正当である。只委任状の蒐集を為す者が偶々経営者の使用人であり此れが経営者の方針に反するときは経営者は会社経営権の重要な作用である解雇権を行使し得るに止まるのであつて蒐集自体は有効に継続されることを如何とも為し難いであろう。只其の使用人が労働組合の組合員であり組合活動として委任状を蒐集する場合に労働組合法に依つて経営者の解雇権から保護せられた安全区域内で此の行為を為し得るや否やに争点の中心があるのである。而して単に株主の委任状蒐集と謂うことを抽象的に考えて直に正当な組合活動に非ずとし、或いは経営権を侵害する行為だと謂うのは妥当ではない。蓋し労働組合が株主に対し自己の希望意思を伝え其の了解賛同を求め或いは委任状の交付を求めることは株主総会の意思を自己に有利に決定せんとするもので換言すれば会社最高の機関である株主総会に対し自己の希望意思の採択を求めるもので法律上の性質は広義の請願行為で毫も経営者に対する行為ではないから経営権の侵害と謂うことは出来ない。経営者が株主総会に嘆願する様に労働組合も亦其の必要があり正当として許すべき場合があるであろう。然し他面委任状の蒐集は如何なる場合にも常に労働組合法第七条の正当な組合活動とも断定出来ないのであつて其の目的方法其の他の諸般の具体的事情を綜合的に判断して正当なりや否やを決しなければならない。仍て委任状蒐集の具体的事情を審究すると成立に争のない乙第三号乃至第六号証、第十三号証ノ一、二、第十八号証、第十九号証、証人芳井先一の証言により真正に成立したと認められる甲第八号証、証人庄田喜当の証言により真正に成立したと認められる乙第二十四号証、証人庄田喜当、同伊藤定作、同真鍋安正、同芳井先一、同高田茂雄、同前田俊平、同西田喜一、同新田広中、同本陣甚一、申請人本人A、同I、同Eの各供述を綜合調査すると、
1、白紙委任状を集めようとした主たる動機は次の通りである。
北国銀行従業員組合はかねてから銀行経営の民主化を標ぼうし、しばしば銀行側に対し、重役の選任について或は組合と協議すること、或は組合員より選任すべきことを申入れ、つねに重役陣の顏ぶれについては深い関心を持つていたが、昭和二十四年十月始め、来るべき十月二十八日の定時株主総会には重役の改選が行われることになつていたので、組合として予め重役の適格条件を論議し、併わせて右総会に対処すべき態度を決定するため同月十六日組合臨時大会を召集するにいたつた。
2、ところが、これを蒐集するについて、組合執行部は如何なる行動に出たかというと、銀行経営者は総会召集の通知を為すと共に若し株主が出席不能のときは株主権の行使を経営者に委任され度旨記載した書面と共に白紙委任状用紙を同年十月十三日付で送付したのであるが(此れは本件銀行に於て従来慣行として行われたところであり一般に株式会社で慣行されて居る)組合幹部はそれに先だち、右総会には重役の改選あることを予め察知していたので、同月十日付で早くも臨時大会開催の通知を為すと共に委任状の蒐集方を指令し、同月十三日重ねて各代議員に宛て「株主総会の委任状は極力各位により御集め下さい。これに協力せざる支店長があつたならば御報告下さい。」という指令を秘かに緊急措置として発したのである。
3、右の臨時大会開催の結果、果して会議は委任状問題につき甲論乙駁され十六日より翌十七日の午前二時過迄もその討議が重ねられたのである。ここでは集めるか集めないかに議論が集中され、結局株主たる組合員が集めようということに決議されると共に重役改選について十四項目の申入、委任状の行使は執行部一任という決議を為すにいたつた。
4、執行部員である申請人等は該決議の執行に当り株主が会社経営者に委任する意思で錯誤に基いて組合側に委任状を交付することの無い様に特別の措置注意を毫も採らず委任状の蒐集を実行に移し且その後一部小松地区、本店営業部に反対があつたにかかわらず、之を継続し七尾地区だけですら、約二百五十名、総数約五万株に及ぶ委任状が集まつたのであるが、これも実は株主が間違えて組合側に渡したというので、その後これを全部組合から取戻されたこともあり又株主の中には委任状は経営者が集めるのか組合が集めるのかとの点に疑問を持ち問合せる株主もあつた。
5、組合執行部はその後十月二十日頃委任状蒐集を抛棄する指令を出したのであるが、執行部は委任状を集めるについて何を目的としていたかというと現頭取と本陣取締役を排撃しようとしたのである。
以上の事実が窺知出来るのであつて右認定に反する申請人本人A、同I、同Eの各供述はこれを措信しない。
以上の事実と更に本件全疏明方法を綜合して考察すると
(イ) 申請人等は株主総会の意思に有力な影響を与え得る程度の多数の委任状を蒐集しようとしたこと(同銀行は少数の株主よりなる合資会社的形態に非ず株式は比較的多数の人に分散され居る株式会社であること乙第四十五号証に依つて明らかである)
(ロ) 而も総会期日前の極めて短時日の間に急速に完了しようとしたこと
(ハ) 銀行経営者側が従来委任状用紙を送付し蒐集して来た前敍慣行を背影として該委任状用紙を蒐集して(イ)(ロ)の要件を充足しようとしたこと
(ニ) 組合員は同時に経営者の命に従い仕事をすべき銀行員たる身分を有するに拘らず右組合員をして委任状を蒐集させるに当り株主をして銀行の現経営者と対立する組合の活動なることを理解し誤解なからしめるに特別の注意措置を毫も採らなかつたこと
(ホ) 該委任状は現経営者の首腦部を排斥する目的に使用せられるものであり株主が経営者の為に蒐集せられるものと誤解し経営者を信頼して蒐集者に交付するに於ては文字通り正反対の目的に行使せられ株主の意思は逆行され組合運動のため重大な犧牲を生ずること
(ヘ) 右(ハ)記載の慣行の下に於て株主の現在の会社銀行の経営に対する知識の程度に於て(ホ)記載の誤解を生ずる危険は極めて多大であり事実として右誤解は相当多く惹起せられたものと推測される。此の点が銀行経営者をして本件蒐集行為を重視し恐れしめた主要原因であり他面組合活動として前記(イ)(ロ)の点を充足し或る意味に於て有力化せしめる契点であること
(ト) 申請人は右(ヘ)を希望し期待し又は認識したるものとは仮処分手続の審理に於て直に断定出来ないが尠くも右を知り得べきものであつたこと
を窺知出来るのである。組合が銀行内部に於て経営者と対立交渉する場合は格別銀行以外の第三者又は株主に働き掛けるとき組合員としての行動なること経営者の意思に従う職員としての行動に非ずして之と独立した又は相反対する行動なることを極めて明白に表現し其の間毫末も誤解なからしめるに付万全の措置を採ることは組合活動をして自主的な正々堂々な運動ならしめるに欠くべからざるもので此の誤解を期待する如き活動は勿論此の誤解を排除するに付き怠慢な活動と雖も労働運動の品位を劣等化し不明朗化するものであつて労働運動の健全な発展の為には極力排斥しなければならない。
而して労働組合法第七条第一号に所謂労働組合の正当な行為であるか否かを決するに当つては專ら行為を客観的に考察し現実に行われる行為に付定めるべきで行為者が希望或いは期待し又は認識したか否かは関係ないもので、只不可抗的客観的原因の介入に依つて現実として行われる行為が行為者の認識しない行為となつた場合のみ使用者の解雇権に影響あるに過ぎないものと解すべきである。
上述の説示に依れば申請人等が本件委任状の蒐集に付演じた客観的の行為は前記法条の定める組合の正当な行為と云い難く同条の保護する範囲を逸脱するものであり経営者側でも申請人等を解雇したとしても不当労働行為と云うことは出来ない。
(二) (労働協約違反について)
被申請人は申請人等主張の労働協約違反についても亦法外組合なる旨の主張を為し、その拘束力のないことをいうのであるが右協約は果して拘束力を有していたのであろうか。成立に争のない甲第二号証、乙第十五号証、証人庄田喜当の証言により真正に成立したと認められる乙第二十三号証を綜合すると、被申請人が昭和二十四年十一月七日同協約第十二条によりこれを爾後廃棄する旨の通告をし、該通告は同月八日相手方たる組合側に到達してその効力を生じたのであつて現行労働組合法第十五条の法意から協約は其の第十二条第二項所定の様に期間を延長されず第一項の期間を以て終了したと解すべく組合側も亦右通告を受ける前から右協約第十二条は新労働組合法第十五条の建前上、同協約の期間満了たる同年十二月二日以降は無協約状態たることを確認していることが一応推測され、そうだとすると被申請人側が本件解雇について経営協議会で審議しなかつたとしても右協約に違反したとは言えず、右解雇を無効というのは当らない。
(三) (労働基準法第二十条違反について)
被申請人が本件解雇について労働基準法所定の三十日前の予告手続を経ていないことは当事者間に争なく、証人源本武雄の供述によると右について行政官庁の認定も受けていないことが窺われる。しかし、成立に争のない乙第十四号証ノ一乃至九証人庄田喜当の証言並にそれより真正に成立したと認められる乙第十七号証ノ二によると本件解雇を為してから三日後の十二月六日被申請人会社は同法第二十条による三十日分以上の平均賃金の受取方を通知したところ、申請人Hはこれを受領し、爾余の各申請人等は支払方を請求して来ないので同月十日から十五日迄の間にこれを供託したことが疏明されている。抑も右法条は解雇の意思表示に付き民法等の一般原則に対し特別の規定を設けると共に之れを刑罰法規の内容として違反するものを刑罰を以て取締ろうとして居るのであるが其の法意は被解雇者をして突如として賃金の收入を失わしめることなく予め解雇を予告させ予告期間に相当する賃金を獲得させるか又は予告なくも経済的に之と同一視すべき收入を確保させることを目的とする取締規定であつて、従つて同法条は予告なき解雇に於ては所定の賃金債権を発生させると共に之が弁済の確保されることを要求して居ることは確実であるが其れ以上の条件を附加して無用に解雇者に繁雑な手続を要求すべきでない。従つて右賃金債権は期限の定めなき債権として民法上即時履行期にあり解雇者は被解雇者の請求あれば直ちに遅滞の責に任ずべき債権であり解雇の意思表示を為すに当り請求あれば即時支払に応じ遅滞に陥らない客観的の金員の準備と主観的の意思あれば同法条の目的とする被解雇者の保護に欠くることなく更に進んで解雇の意思表示の到達と同時に各被解雇者の住所に於て(右債権履行の場所は民法に依り被解雇者の住所であつて勤務中の賃金債権とは性質を異にし其の履行の場所も同一と解すべきでない)現実の弁済の提供を必要条件とすることは法条の直接の内容から生じないし刑罰法規の解釈の原則からしても相当と謂い難い。本件に於て解雇者の為した口頭に依る弁済の提供は実は不要の手続であるが然し之に依り支払の請求を為した者には直ちに支払を了して居るのであつて他の請求をしない者に付いては債務者の遅滞は生じなかつたこと。(供託は無用の手続である)然し解雇者は請求に応じ即時支払に応ずる客観的の資力あり主観的の用意もあつたことを推知出来るのである。要するに前示法条は単なる取締規定で之に違反するも解雇の効力に毫末も影響なきのみでなく本件解雇は同法条に違反するものでもないから此の点に関する申請人の主張は採用するに由ない。
(四) (解雇権濫用について)
権利を濫用してはならないことは申請人の主張するとおりである。しかし本件においては全疏明によるもこれを肯定するに足るものがない。
さて、以上のように判断した結果によると、本件解雇については申請人等主張の如き無効原因はついにこれが疏明がなかつたと言うの外はない。而して又仮処分の必要ありや否についても当事者双方の疏明するところによると仮の地位を設定しなければ申請人が直に生活に窮するものとも認め難い。かような訳で、申請人の本件申請を却下することとし申請費用は敗訴した申請人等に負担させることにした。
(裁判官 北野孝一 米光哲 向井哲次郎)